各種AM変調の復調方法

1. 通常AM (DSB-LC) の復調

通常AM(Double-Sideband with Large Carrier: DSB-LC)は、搬送波に情報信号の振幅を乗せて送信する方式です。送信信号は、搬送波 $A_c \cos(2\pi f_c t)$ に情報信号 $m(t)$ を加えた形で表現され、$s(t) = (A_c + m(t)) \cos(2\pi f_c t)$ となります。ここで、$A_c$ は搬送波の振幅、$f_c$ は搬送波の周波数です。

このAM信号の復調には、非常にシンプルで効果的な包絡線検波が広く用いられます。包絡線検波は、信号の振幅の変化(つまり包絡線)を直接取り出すことで、元の情報信号を復元します。

包絡線検波の仕組み

包絡線検波器は、主にダイオードRCフィルタ(抵抗とコンデンサ)で構成されます。受信したAM信号はまずダイオードを通ります。ダイオードは一方向のみ電流を流すため、AM信号の負の半サイクルを阻止し、正の半サイクルのみを通します(半波整流)。

この半波整流された信号は、次にRCフィルタに入ります。コンデンサは信号のピーク値まで充電され、ダイオードがオフになるとゆっくり放電します。これにより、高周波の搬送波成分が除去され、情報信号のゆっくりとした変化である包絡線が抽出されます。

包絡線検波のブロック図と波形イメージ

包絡線検波のアニメーションイメージ

(上図は包絡線検波の概念的なアニメーションです。入力AM信号、ダイオードによる半波整流、そしてRCフィルタによる平滑化を経て情報信号が抽出される様子を示しています。)


2. DSB (DSB-SC) の復調

DSB(Double-Sideband Suppressed Carrier: DSB-SC)は、搬送波成分を送信しない、つまり抑圧した両側波帯変調方式です。送信信号は単純に情報信号 $m(t)$ と搬送波 $A_c \cos(2\pi f_c t)$ の積で表され、$s(t) = m(t) \cos(2\pi f_c t)$ となります。

搬送波成分がないため、通常AMのように包絡線検波は使えません。DSB信号の復調には、同期検波(コヒーレント検波)が必須です。同期検波では、受信側で送信時と同じ周波数と位相を持つ搬送波を生成し、受信信号と掛け合わせます。

同期検波の仕組み

受信したDSB信号 $s(t) = m(t) \cos(2\pi f_c t)$ に、受信側で生成した局発信号 $A_{LO} \cos(2\pi f_c t)$ を乗算します。乗算後の信号は以下のようになります。

$$ V_{out}(t) = s(t) \times A_{LO} \cos(2\pi f_c t) = m(t) \cos(2\pi f_c t) \times A_{LO} \cos(2\pi f_c t) $$ $$ = A_{LO} m(t) \cos^2(2\pi f_c t) $$ 三角関数の倍角の公式 $\cos^2 x = \frac{1 + \cos(2x)}{2}$ を適用すると、 $$ V_{out}(t) = A_{LO} m(t) \left( \frac{1 + \cos(4\pi f_c t)}{2} \right) = \frac{A_{LO}}{2} m(t) + \frac{A_{LO}}{2} m(t) \cos(4\pi f_c t) $$

この信号をローパスフィルタ(LPF)に通すことで、高周波成分 $m(t) \cos(4\pi f_c t)$ が除去され、元の情報信号 $m(t)$ に比例する $\frac{A_{LO}}{2} m(t)$ が得られます。

同期検波では、局部発振器の周波数と位相が送信搬送波に正確に一致していることが極めて重要です。わずかな周波数や位相のずれでも、復調された信号に大きな歪みが生じます。

DSBの同期検波のブロック図と波形イメージ

DSB同期検波のアニメーションイメージ

(上図はDSB同期検波の概念的なアニメーションです。入力DSB信号と局部発振器信号の乗算、そしてローパスフィルタによる情報信号の抽出を示しています。DSBの両側波帯が検波に寄与する様子をイメージしています。)


3. SSB (SSB-SC) の復調

SSB(Single-Sideband Suppressed Carrier: SSB-SC)は、DSBからさらに進化し、片側の側波帯と搬送波成分の両方を抑圧して送信する方式です。送信信号は、上側波帯(USB)のみ、または下側波帯(LSB)のみとなります。これにより、必要な帯域幅をDSBの半分に削減でき、電力効率も向上します。

SSB信号の復調も、DSBと同様に同期検波が必須です。SSB信号 $s_{SSB}(t)$ に、送信搬送波と同期した局部発振器の信号 $A_{LO} \cos(2\pi f_c t)$ を乗算し、その後ローパスフィルタを通します。

SSBの同期検波の仕組み

例えば、上側波帯(USB)のSSB信号を受信した場合、これを局部発振器の信号と乗算すると、

$$ V_{out}(t) = s_{USB}(t) \times A_{LO} \cos(2\pi f_c t) $$

この乗算された信号には、元の情報信号成分と、高周波の不要成分が含まれています。ローパスフィルタを通すことで、高周波成分が除去され、元の情報信号 $m(t)$ に比例する成分が復調されます。

SSBもDSBと同様に、局部発振器の周波数と位相が正確である必要があります。少しのずれでも、復調された音声が不明瞭になったり、音程が変わったりする「ドナルドダック効果」と呼ばれる現象が発生します。

SSBの同期検波のブロック図と波形イメージ

SSB同期検波のアニメーションイメージ

(上図はSSB同期検波の概念的なアニメーションです。入力SSB信号(単一側波帯)と局部発振器信号の乗算、そしてローパスフィルタによる情報信号の抽出を示しています。)


4. VSB (VSB-SC) の復調

VSB(Vestigial Sideband Suppressed Carrier: VSB-SC)は、残留側波帯変調とも呼ばれ、DSBとSSBの中間に位置する変調方式です。これは、一方の側波帯の大部分と、もう一方の側波帯の一部(残留側波帯)を送信します。搬送波成分は通常抑圧されます。

VSBは主にテレビの映像信号の伝送に用いられます。映像信号は低い周波数成分が多く、直流成分も含まれるため、SSBでは復調が困難になる場合があります。VSBは、低周波成分が両側波帯に存在する特性を生かし、搬送波付近の低周波成分を確保することで、歪みの少ない復調を可能にします。

VSBの同期検波の仕組み

VSB信号の復調にも、他の抑圧搬送波変調と同様に同期検波が用いられます。受信したVSB信号 $s_{VSB}(t)$ に、送信搬送波と同期した局部発振器の信号 $A_{LO} \cos(2\pi f_c t)$ を乗算し、その後ローパスフィルタを通すことで、元の情報信号が復調されます。

VSB変調では、送信側で残留側波帯を生成するために特殊なフィルタ(側波帯通過フィルタ)を使用します。受信側でも、復調後の信号を整形するために適切なイコライザフィルタが用いられることがあります。

VSBの同期検波のブロック図と波形イメージ

VSB同期検波のアニメーションイメージ

(上図はVSB同期検波の概念的なアニメーションです。入力VSB信号(残留側波帯を含む)と局部発振器信号の乗算、そしてローパスフィルタによる情報信号の抽出を示しています。)


これらの図とアニメーションは概念を示すものであり、実際の波形は信号の内容や回路設計によって異なります。