7404 NOT回路(Hex Inverter)

トランジスタレベルでの動作原理解説

📖 7404とは

7404は6個の独立したNOT回路(インバーター)を内蔵したTTL(Transistor-Transistor Logic)ICです。各NOT回路は入力信号を反転させる基本的な論理ゲートです。

入力(A) 出力(Y)
Low (0V) High (5V)
High (5V) Low (0V)

🔧 TTLインバーターの内部回路構造

+5V (VCC) GND (0V) Q1 INPUT R1 4kΩ Q2 R2 1.6kΩ Q3 R3 130Ω Q4 OUTPUT 入力段(電流制御) 位相分割段 トーテムポール出力段
回路の3つの段:
  • 入力段(Q1):マルチエミッタトランジスタによる電流制御
  • 位相分割段(Q2):信号を反転し、出力段を駆動
  • 出力段(Q3, Q4):トーテムポール構成による高速・低インピーダンス出力

⚡ 動作原理の詳細解説

🔴 入力がHigh(5V)の時

Q1(入力段):
・入力エミッタに5Vが印加
・ベース-エミッタ間が順方向バイアス
・電流がQ2のベースに流れる
Q2(位相分割段):
・ベースに電流が流れON状態
・コレクタ電圧が下がる(約0.7V)
・エミッタ電圧が上がる(約4.3V)
Q3(上側出力):
・ベース電圧が低く、OFF状態
・出力に電流を供給しない
Q4(下側出力):
・ベース電圧が高く、ON状態
・出力をGNDに接続

結果: 出力 = Low(0V)

🔵 入力がLow(0V)の時

Q1(入力段):
・入力エミッタが0V
・R1から電流がQ1を通して入力へ流れる
・Q2のベースに電流が流れない
Q2(位相分割段):
・ベース電流がないためOFF状態
・コレクタ電圧が高い(約5V)
・エミッタ電圧が低い(約0V)
Q3(上側出力):
・ベース電圧が高く、ON状態
・VCCから出力に電流を供給
Q4(下側出力):
・ベース電圧が低く、OFF状態
・出力をGNDから切り離し

結果: 出力 = High(5V)

🎯 トーテムポール出力の利点

7404のトーテムポール出力構成(Q3とQ4)には以下の利点があります:

1. 低出力インピーダンス

High出力時はQ3が、Low出力時はQ4が低インピーダンスパスを提供し、外部負荷を効率的に駆動できます。

2. 高速スイッチング

出力レベル変化時に、一方のトランジスタがOFFになると同時に他方がONになるため、高速な立ち上がり・立ち下がりが可能です。

3. 大きな駆動能力

典型的なTTL出力は16mA(High出力時)から40mA(Low出力時)の電流を供給/吸収できます。

⚡ TTLファミリの進化:Schottky技術

🔍 Schottkyダイオードの役割

標準TTLの問題点:トランジスタが飽和状態になると、ベースに蓄積電荷が残り、OFF時の応答速度が遅くなります。

Schottkyダイオードによる解決:ベース-コレクタ間にSchottkyダイオードを並列接続することで、トランジスタの飽和を防ぎ、蓄積電荷を削減して高速スイッチングを実現します。

標準TTLトランジスタ Q B C E + 蓄積電荷あり(遅い) Schottkyトランジスタ Q B C E SBD 蓄積電荷なし(高速) 改良

🚀 TTLファミリの比較

74S04(Schottky TTL)

特徴:
・Schottkyダイオードクランプ採用
・高速動作を重視した設計
・1969年に導入された初期Schottky技術
性能:
・伝播遅延:約3ns(標準TTLの3倍高速)
・消費電力:約20mW/ゲート(標準TTLの2倍)
・動作周波数:~100MHz
用途:
高速処理が必要なシステム、メモリアクセス回路、高周波アプリケーション

74LS04(Low-power Schottky TTL)

特徴:
・Schottky技術 + 高抵抗値回路
・速度と消費電力のバランス重視
・最も普及したTTLファミリ
性能:
・伝播遅延:約10ns(標準TTLと同等)
・消費電力:約2mW/ゲート(標準TTLの1/5)
・動作周波数:~40MHz
用途:
汎用デジタル回路、マイクロプロセッサ周辺回路、省電力システム

📊 TTLファミリ性能比較表

ファミリ 型番例 伝播遅延 消費電力 Speed×Power積 特徴
標準TTL 7404 10ns 10mW 100pJ 初期のTTL技術
Schottky TTL 74S04 3ns 20mW 60pJ 高速・高消費電力
Low-power Schottky 74LS04 10ns 2mW 20pJ バランス型・最普及
Advanced LS 74ALS04 4ns 1.2mW 4.8pJ さらなる改良版

Speed×Power積は回路性能の指標で、値が小さいほど優秀です。74LS04は消費電力を大幅に削減しながら実用的な速度を維持し、最もバランスの取れたファミリとして広く採用されました。

🔧 回路設計上の違い

74S04の設計特徴

Schottkyダイオードクランプ:各トランジスタのベース-コレクタ間にSchottkyダイオードを配置し、飽和防止による高速化を実現
低抵抗値回路:駆動能力向上のため抵抗値を小さくし、大電流駆動が可能(ただし消費電力増加)

74LS04の設計特徴

高抵抗値 + Schottky:抵抗値を大きくして消費電力を削減しつつ、Schottkyダイオードで速度を維持
最適化された回路構成:入力プルアップ抵抗を約20kΩ(標準TTLは4kΩ)に増加し、消費電力を大幅削減

📊 電圧レベル仕様(全ファミリ共通)

パラメータ 備考
電源電圧(VCC) 4.75V ~ 5.25V 全TTLファミリ共通
入力High電圧(VIH) 2.0V 以上 論理"1"と認識
入力Low電圧(VIL) 0.8V 以下 論理"0"と認識
出力High電圧(VOH) 2.4V 以上 論理"1"出力時
出力Low電圧(VOL) 0.4V 以下 論理"0"出力時

🎯 用途別選択指針

7404(標準TTL)を選ぶ場合

・汎用的なデジタル回路
・コストを重視する場合
・速度要求が厳しくない用途
・学習・実験用途

74S04(Schottky TTL)を選ぶ場合

・高速データ処理が必要
・メモリインターフェース
・高周波クロック回路
・消費電力よりも速度優先

74LS04(Low-power Schottky)を選ぶ場合

・バランスの取れた性能が必要
・バッテリー駆動システム
・大規模なデジタルシステム
・最も汎用的な選択肢

現代の代替技術

・74HC04(CMOS):より低消費電力
・74AC04(Advanced CMOS):高速CMOS
・74LVC04(低電圧CMOS):3.3V動作
・用途に応じた最適化が進んでいる

💡 まとめ

7404シリーズのNOT回路は、基本的な3段構成TTL回路により信号を確実に反転します。Schottkyダイオードをベース-コレクタ間に配置することで、トランジスタの飽和を防ぎ蓄積電荷を削減し、高速スイッチングを実現したのが74S04です。

74S04は高速だが消費電力が大きく、74LS04は74Sの低電力版で、わずかに高速でありながら標準TTLより低消費電力を実現しています。74LS04はSchottkyダイオードと高抵抗値を組み合わせることで優れたバランスを達成し、最も広く普及したTTLファミリとなりました。

現在ではCMOS技術により、さらに低消費電力で高性能なロジックICが主流となっていますが、TTL技術の発展過程を理解することは、デジタル回路設計の基礎として重要な意味を持っています。Speed×Power積の概念に示されるように、回路設計では常に性能と消費電力のトレードオフを考慮する必要があります。