💫 キャリア連続の式(Carrier Continuity Equation)
🎯 この章で学ぶこと
半導体中のキャリア(電子・正孔)の動的な振る舞いを記述する連続の式について理解しよう!
これは半導体デバイスの動作解析に不可欠な基本方程式です。
📖 キャリア連続の式とは?
キャリア連続の式は、半導体中の自由電子や正孔の濃度が時間とともにどのように変化するかを記述する偏微分方程式です。これは質量保存の法則を電子・正孔に適用したものです。
🔬 物理的意味
「ある領域内のキャリア濃度の時間変化 = 流入量 - 流出量 + 生成量 - 消滅量」
この関係式が、キャリア連続の式の本質です。
⚡ 電子の連続の式
電子の連続の式
$$\frac{\partial n}{\partial t} = \frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_n + G_n - R_n$$
各項の意味:
$\frac{\partial n}{\partial t}$: 電子濃度の時間変化率
$\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_n$: 電子電流の発散(流出入)
$G_n$: 電子の生成率 [cm⁻³s⁻¹]
$R_n$: 電子の再結合率 [cm⁻³s⁻¹]
🔍 各項の詳細な説明
💡 電流密度項の物理的意味
$\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_n$ の符号に注意!
- $\nabla \cdot \vec{J}_n > 0$: 電流が発散(流出)→ 電子濃度減少
- $\nabla \cdot \vec{J}_n < 0$: 電流が収束(流入)→ 電子濃度増加
🕳️ 正孔の連続の式
正孔の連続の式
$$\frac{\partial p}{\partial t} = -\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_p + G_p - R_p$$
電子との違い:
正孔は正の電荷を持つため、電流密度項の符号が逆になる(負号がつく)
⚠️ 符号に注意!
電子と正孔では電荷の符号が異なるため、電流密度項の符号が逆になります。
- 電子: $+\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_n$
- 正孔: $-\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_p$
📊 変数・記号の定義
記号 | 物理量 | 単位 | 備考 |
---|---|---|---|
$n$ | 電子濃度 | [cm⁻³] | 自由電子の数密度 |
$p$ | 正孔濃度 | [cm⁻³] | 正孔の数密度 |
$\vec{J}_n$ | 電子電流密度 | [A/cm²] | 電子による電流 |
$\vec{J}_p$ | 正孔電流密度 | [A/cm²] | 正孔による電流 |
$G_n, G_p$ | 生成率 | [cm⁻³s⁻¹] | 光照射・衝突電離など |
$R_n, R_p$ | 再結合率 | [cm⁻³s⁻¹] | 電子-正孔対の消滅 |
$q$ | 素電荷 | [C] | $1.602 \times 10^{-19}$ C |
🔬 電流密度の詳細表現
電流密度はドリフトと拡散の2つの成分からなります:
電子電流密度
$$\vec{J}_n = q \mu_n n \vec{E} + q D_n \nabla n$$正孔電流密度
$$\vec{J}_p = q \mu_p p \vec{E} - q D_p \nabla p$$
第1項: ドリフト電流(電界による)
第2項: 拡散電流(濃度勾配による)
💡 アインシュタインの関係式
移動度と拡散係数の間には以下の関係があります:
$$\frac{D_n}{\mu_n} = \frac{D_p}{\mu_p} = \frac{k_B T}{q} = V_T$$$V_T$ は熱電圧(室温で約26mV)
📝 連続の式の導出
🎓 数学的導出
Step 1: 微小体積要素 $\Delta V$ を考える
Step 2: 流入・流出による電子数の変化
$$\frac{\partial}{\partial t}(n \Delta V) = -\nabla \cdot \vec{J}_n \frac{\Delta V}{q}$$Step 3: 生成・再結合項を加える
$$\frac{\partial n}{\partial t} \Delta V = -\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_n \Delta V + (G_n - R_n) \Delta V$$Step 4: $\Delta V$ で除して完成
$$\frac{\partial n}{\partial t} = -\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_n + G_n - R_n$$🌟 具体的な応用例
1. 定常状態 (Steady State)
定常状態では $\frac{\partial n}{\partial t} = 0$ なので:
$$\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_n = G_n - R_n$$つまり、流出入 = 正味生成率のバランスが成立
2. 均一照射下の1次元問題
光が均一に照射され、電界がない場合(拡散のみ):
$$\frac{\partial n}{\partial t} = D_n \frac{\partial^2 n}{\partial x^2} + G - R$$これは拡散方程式の形になります。
3. 少数キャリアの拡散
n型半導体中の過剰正孔 $\Delta p$ について:
$$\frac{\partial (\Delta p)}{\partial t} = D_p \frac{\partial^2 (\Delta p)}{\partial x^2} - \frac{\Delta p}{\tau_p}$$ここで $\tau_p$ は正孔の少数キャリア寿命
🎮 インタラクティブ シミュレーション
キャリア濃度の時間変化シミュレーション
パラメータを調整して、キャリア濃度の変化を観察しよう!
青線:電子濃度、赤線:正孔濃度の時間変化
平衡状態での濃度:n = p = G/R = 1.67×10¹⁶ cm⁻³
💡 重要なポイント
🔥 テストに出るポイント
- 符号の取り扱い: 電子と正孔で電流項の符号が異なる
- 定常状態: $\frac{\partial n}{\partial t} = 0$ の条件
- 拡散方程式: 電界がない場合の簡単化
- 少数キャリア: 寿命による再結合の記述
- 単位の一貫性: [cm⁻³], [s⁻¹], [A/cm²] の関係
🎯 覚えるべき基本形
電子: $\frac{\partial n}{\partial t} = +\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_n + G_n - R_n$
正孔: $\frac{\partial p}{\partial t} = -\frac{1}{q} \nabla \cdot \vec{J}_p + G_p - R_p$
電流項の符号が逆であることを必ず覚えましょう!