🔬 pn接合とショットキー・オーミック接合の評価

🎯 この章で学べること

半導体接合の特性を評価する方法を理解しよう!
中学数学から段階的にpn接合、ショットキー接合、オーミック接合の共通点と違いを学び、
実際の測定手法とその解釈について習得します。

📚 学習の進め方(段階的アプローチ)

Step 1: 身近な例での理解(水道管・電池)
Step 2: グラフの見方(中学数学レベル)
Step 3: 簡単な計算(高校数学レベル)
Step 4: 実用的な測定方法
Step 5: 大学レベルの理論

🏠 身近な例で理解する接合の基本

🚰 水道管で考える電気の流れ

電気の流れを水の流れに例えて考えてみよう:

  • 電圧 ≈ 水圧: 高いところから低いところへ流れる
  • 電流 ≈ 水量: どれだけの量が流れるか
  • 抵抗 ≈ 管の細さ: 細い管は流れにくい
  • 接合 ≈ 管の継ぎ目: つなぎ方で流れ方が変わる
🔧 3つの継ぎ目(接合)タイプ
  • pn接合: 一方通行の弁(逆止弁)
  • ショットキー接合: 速い一方通行弁
  • オーミック接合: 普通のまっすぐな管

📊 水道管の例で見る3つの接合

🔴 pn接合(逆止弁)
順方向OK 逆方向NG

右から左は流れない

🟠 ショットキー接合
高速動作

速い一方通行

🟢 オーミック接合
双方向OK

どちらからでも流れる

💡 覚えるコツ

pn = Permanent No-return(一方通行)
ショットキー = Speedy(高速)
オーミック = Open(開放)

📊 接合評価の基本概念

📈 Step 2: グラフで理解する電気の特性(中学数学レベル)

🎯 グラフの基本的な見方

まずは中学校で習ったグラフの読み方を思い出そう:

  • 横軸(X軸): 電圧 [V] - バッテリーの強さのようなもの
  • 縦軸(Y軸): 電流 [A] - 流れる電気の量
  • グラフの形: 電圧と電流の関係を表す
🟢 オーミック接合(まっすぐな線)
電圧 → 電流

比例関係:電圧2倍 → 電流2倍

🔴 pn接合(曲がった線)
電圧 → 電流

急激な増加:少しの電圧で電流が大幅に増加

🤔 なぜグラフの形が違うの?

  • オーミック: 障害物なし → まっすぐ流れる → 直線
  • pn接合: 電圧が小さいと流れにくい → ある電圧を超えると急に流れる → 曲線

🔴 pn接合

特徴:

  • 整流特性(ダイオード動作)
  • 順方向:指数関数的増加
  • 逆方向:飽和電流
  • 内蔵電位の存在

🟠 ショットキー接合

特徴:

  • 金属-半導体接合
  • pn接合より高速動作
  • ショットキー障壁高さ
  • 熱電子放出機構

🟢 オーミック接合

特徴:

  • 線形I-V特性
  • 抵抗成分のみ
  • 低接触抵抗
  • 電極として機能

📏 共通の評価方法

🔍 I-V特性測定

すべての接合タイプで最も基本的な評価方法

測定の共通点:

  • DC特性: 電圧を変化させて電流を測定
  • 温度依存性: 各温度での特性変化
  • パラメータ抽出: 物理定数の決定
  • 品質評価: 理想性からのずれ

📐 理論式の比較

🧮 Step 3: 高校数学で理解する計算(高校レベル)

📏 オーミックの法則(中学でも習う!)

オーミック接合は一番簡単:

電流 = 電圧 ÷ 抵抗
I = V / R(オームの法則)
💡 具体例で計算してみよう

問題: 抵抗が100Ωのオーミック接合に3Vをかけたら、電流は?

計算: I = 3V ÷ 100Ω = 0.03A = 30mA

答え: 30ミリアンペア流れる

📈 pn接合(ちょっと複雑だけど理解できる)

pn接合は指数関数を使う(高校数学で習うやつ!):

I = I₀ × (e^(V/0.026) - 1)
I₀は「飽和電流」、0.026Vは「熱電圧」
🔬 簡単な例で見てみよう

条件: I₀ = 0.001A, V = 0.7V のとき

計算:

  • V/0.026 = 0.7/0.026 ≈ 27
  • e^27 ≈ 532,000,000,000 (5億3200万!)
  • I ≈ 0.001 × 532,000,000,000 = 532,000A

結論: 0.7Vで急激に電流が増加!

⚡ ショットキー接合(pn接合に似ているけど速い)

基本的にはpn接合と同じ式だけど、パラメータが違う:

特徴:

  • pn接合より速く反応
  • 温度による変化が大きい
  • スマホの充電器によく使われる
接合タイプ 基本式 主要パラメータ 特徴的挙動 身近な例
pn接合 $I = I_s(e^{qV/nkT} - 1)$ $I_s$: 飽和電流
$n$: 理想因子
指数関数的増加 🚪 重いドアが急に開く
ショットキー $I = AA^*T^2e^{-q\phi_B/kT}(e^{qV/nkT} - 1)$ $\phi_B$: 障壁高さ
$A^*$: リチャードソン定数
温度依存性が大きい 🏔️ 山を越える(速い)
オーミック $I = \frac{V}{R_{contact}}$ $R_{contact}$: 接触抵抗 線形関係 🥤 ストローで吸う

🎓 大学レベルの理論(Step 5+)

上の式は大学3-4年生レベルですが、基本的な意味は今までの説明で理解できます:

  • 指数関数 e^x: 「急激に変化する」ことを表す数学
  • kT: 「温度の影響」を表す(k:ボルツマン定数、T:温度)
  • q: 電子1個の電荷(基本定数)

「数式は怖くない!意味がわかれば道具として使えます」

🔬 pn接合の式を詳しく理解しよう

📖 Step 6: 大学レベルの式を段階的に理解

🎯 最終目標の式

$$I = I_s\left(e^{\frac{qV}{nkT}} - 1\right)$$

この式を一つずつ分解して理解しよう!

🔢 Step 6-1: まずは数値から理解

難しい文字の代わりに、実際の数値を使ってみよう:

📊 室温(25℃ = 298K)での数値
  • k = 1.38 × 10⁻²³ J/K(ボルツマン定数)
  • T = 298 K(絶対温度)
  • q = 1.60 × 10⁻¹⁹ C(電子の電荷)
  • kT/q = 0.0257 V ≈ 0.026V(熱電圧)
🧮 実際の計算例

V = 0.7V、n = 1、Is = 10⁻⁹A の場合:

qV/nkT = 0.7 / (1 × 0.026) = 26.9
e^26.9 ≈ 532,000,000,000
I = 10⁻⁹ × (532,000,000,000 - 1) ≈ 532A

→ わずか0.7Vで大電流!

⚡ Step 6-2: 各項の物理的意味

🔬 Is(飽和電流)

物理的意味: pn接合に逆方向電圧をかけたときの電流

  • 少数キャリアの拡散で決まる
  • 小さいほど良い接合
  • 温度で大きく変化
身近な例: 水道の蛇口の「漏れ」
閉じても少し漏れる = Is
🌡️ kT/q(熱電圧)

物理的意味: 熱運動が電気に与える影響

  • 温度が高い → kT大 → 電流変化が緩やか
  • 温度が低い → kT小 → 電流変化が急激
  • 室温で約26mV
身近な例: 砂糖の溶け方
お湯(高温)→ゆっくり溶ける
冷水(低温)→急激に変化
📏 n(理想因子)

物理的意味: 理想的なpn接合からのずれ

  • n = 1: 理想的(拡散電流のみ)
  • n = 2: 再結合電流が支配的
  • n > 2: 何か問題がある
身近な例: 道路の渋滞度
n = 1: スムーズ
n = 2: 少し渋滞
n > 2: 大渋滞

🧪 Step 6-3: なぜ指数関数なの?

🎲 確率の考え方

電子がpn接合を通り抜ける確率は:

確率 ∝ e^(-エネルギー障壁/kT)
  • エネルギー障壁が高い → 通りにくい → 確率小
  • エネルギー障壁が低い → 通りやすい → 確率大
  • 温度が高い(kT大) → 熱運動で越えやすい
🏔️ 山越えの例
低い山(順方向)
  • 電圧をかけると障壁が下がる
  • e^(-小さな数) ≈ 大きな確率
  • たくさんの電子が通れる
高い山(逆方向)
  • 障壁が高いまま
  • e^(-大きな数) ≈ 小さな確率
  • ほとんど電子が通れない

🔄 Step 6-4: 式の組み立て

📝 ステップバイステップ導出
Step A: 熱平衡状態での電流 $$I = I_{forward} - I_{reverse}$$

順方向電流から逆方向電流を引く

Step B: ボルツマン分布を適用 $$I_{forward} = I_s e^{\frac{qV}{nkT}}$$

順方向電流は指数関数的に増加

Step C: 熱平衡条件 $$I_{reverse} = I_s$$

逆方向電流は飽和電流で一定

Step D: 最終的な式 $$I = I_s e^{\frac{qV}{nkT}} - I_s = I_s\left(e^{\frac{qV}{nkT}} - 1\right)$$

これで完成!

🎯 Step 6-5: 式の使い方

📊 グラフを描く
  • V = -2V から +1V まで計算
  • 各電圧でI値を求める
  • プロットして特性グラフ作成
V = 0.6V のとき
I = 10⁻⁹×(e^(0.6/0.026)-1)
≈ 10⁻⁹×(e^23-1) ≈ 0.1A
🔍 パラメータ抽出
  • 測定データから Is と n を求める
  • ln(I+Is) vs V をプロット
  • 傾きから n を決定
ln(I) ≈ ln(Is) + qV/(nkT)
直線の傾き = q/(nkT)
→ n を算出
⚙️ 設計に活用
  • 目標特性から Is を設計
  • 温度特性を予測
  • 回路動作点を決定
目標: 0.7Vで1mA
必要Is = 1mA/e^27
≈ 2×10⁻¹²A

🎉 まとめ:式が怖くなくなった!

🔢 数値で理解

実際の数を入れて計算

🎯 意味で理解

各項の物理的な意味

🧪 原理で理解

なぜその形になるか

🛠️ 使用で理解

実際にどう使うか

大学の式も、ステップを踏めば必ず理解できる!

🎓 さらに深く:量子力学的理解

🌌 Step 7: 大学院レベルの理解(量子力学からのアプローチ)

⚛️ なぜ指数関数が現れるのか?(最も根本的な理由)

🎲 量子力学の基本原理

電子は波の性質を持っているため、エネルギー障壁を「トンネル効果」で通り抜けることができます。

🌊 シュレーディンガー方程式からの導出
$$-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\psi}{dx^2} + V(x)\psi = E\psi$$

この方程式を解くと、エネルギー障壁を通り抜ける確率が指数関数になります!

透過確率 ∝ exp(-2κa)
κ = √(2m(V-E))/ℏ, a = 障壁の幅
🔥 熱力学との関係

同時に、統計力学からも指数関数が現れます:

📊 フェルミ・ディラック分布
$$f(E) = \frac{1}{1 + e^{\frac{E-E_F}{kT}}}$$

電子がどの準位にいるかの確率分布も指数関数!

低温(T小)
  • フェルミレベル付近で急峻
  • 電子の分布がシャープ
  • pn接合の特性も急峻
高温(T大)
  • なだらかな分布
  • 熱運動が活発
  • pn接合の特性も緩やか
🔗 全体像:3つの理論が一致
⚛️ 量子力学

トンネル効果
exp(-障壁)

🔥 統計力学

フェルミ分布
exp(-E/kT)

⚡ 電気物性

ダイオード方程式
exp(qV/kT)

驚くべき事実: 量子力学、統計力学、電気工学が
すべて同じ指数関数を予言!

🧮 数学的な美しさ:微分方程式の解

📐 なぜ exp(x) が特別なのか?

指数関数 y = e^x は数学的に非常に特別な関数です:

🔄 微分しても変わらない
$$\frac{d}{dx}e^x = e^x$$

自分自身が導関数

📈 最も急激な増加
$$\lim_{n \to \infty}\left(1+\frac{x}{n}\right)^n = e^x$$

複利計算の極限

🌊 振動と減衰
$$e^{i\omega t} = \cos(\omega t) + i\sin(\omega t)$$

オイラーの公式

💡 物理現象との対応
  • 放射性崩壊: N(t) = N₀e^(-λt) → 時間とともに指数減衰
  • 人口増加: P(t) = P₀e^(rt) → 時間とともに指数増加
  • 電流: I = I₀e^(V/VT) → 電圧とともに指数増加

指数関数は自然界の「基本言語」!

🎯 実用的な数学技法
📊 対数プロット
$$\ln(I) = \ln(I_s) + \frac{qV}{nkT}$$

指数関数を直線に変換

  • 傾き → n値の決定
  • 切片 → Is値の決定
  • データフィッティングが容易
📈 テイラー展開
$$e^x \approx 1 + x + \frac{x^2}{2} + \cdots$$

小さな電圧での近似

  • V << kT/q でリニア近似
  • 微小信号等価回路の導出
  • AC解析に応用
🔢 数値解析
$$I_{n+1} = I_n - \frac{f(I_n)}{f'(I_n)}$$

ニュートン法で数値求解

  • 非線形方程式の求解
  • 回路シミュレータの核心
  • SPICEの動作原理

🔬 実験と理論の橋渡し

🎯 理論予測と実測値の比較
パラメータ 理論予測 実測範囲 ずれの原因
理想因子 n 1.0(理想) 1.0-2.5 再結合電流、直列抵抗
飽和電流 Is 拡散理論値 理論値の1-1000倍 表面準位、欠陥
温度依存性 T³exp(-Eg/kT) ほぼ理論通り バンドギャップの温度依存性
💡 理論と実験のギャップを埋める

完璧な理論式と現実のずれこそが、新しい物理現象の発見につながります!

  • 予想より大きなn値 → 新しい電流機構の発見
  • 温度依存性の異常 → 深い準位の存在
  • 電圧依存性の変化 → 界面準位密度の評価

🏆 最終メッセージ

中学数学の「水道管」から始まって、
量子力学の「波動方程式」まで理解できた!

🌟 学問に境界はない 🌟

数学 ↔ 物理学 ↔ 工学
すべてがつながっている美しい世界

「難しい」は「まだ理解していない」だけ。
ステップを踏めば、必ずたどり着ける!

🧪 実際の測定手法

🔧 Step 4: 実用的な測定方法(誰でもできる!)

🏠 家庭での例:コンセントの電圧測定

半導体の測定も、基本的には家のコンセントを測るのと同じ!

🏠 家庭の場合
  • テスター(電圧計)をコンセントに当てる
  • 100Vが表示される
  • 電流は流れていない機器で測る
🔬 半導体の場合
  • プローブ(細い針)を半導体に当てる
  • 小さな電圧をかけて反応を見る
  • 電流の変化をグラフに記録

📊 測定の流れ(3ステップ)

1️⃣
電圧をかける

少しずつ電圧を上げていく
(0V → 0.1V → 0.2V → ...)

2️⃣
電流を測る

それぞれの電圧で
どれだけ電流が流れるか記録

3️⃣
グラフにする

電圧と電流の関係を
グラフに描いて特性を見る

⚠️ 注意事項(安全第一!)

  • 電圧は少しずつ: いきなり大きな電圧をかけると壊れる
  • 温度に注意: 熱くなりすぎると特性が変わる
  • 光を遮る: 光が当たると電流が変化することがある
  • 清潔に: ほこりや汚れも測定に影響する

1. I-V特性測定

pn接合のダイオード方程式

$$I = I_s\left(e^{\frac{qV}{nkT}} - 1\right)$$

パラメータ抽出:
• 順方向特性から $I_s$ と $n$ を決定
• 逆方向特性から漏れ電流を評価
• 温度依存性から活性化エネルギーを算出

💡 測定のポイント

2. C-V特性測定

容量-電圧特性の意義

接合容量の電圧依存性から重要な情報を抽出

pn接合の場合

$$\frac{1}{C^2} = \frac{2(V_{bi} - V)}{q\varepsilon N_A N_D}(N_A + N_D)$$

抽出可能なパラメータ:
• 内蔵電位 $V_{bi}$
• 不純物濃度 $N_A$, $N_D$
• 空乏層幅

3. 温度依存性測定

⚠️ 温度特性の重要性

温度依存性は接合の物理機構を理解する重要な手がかり

🎮 インタラクティブ I-V特性シミュレータ

接合のI-V特性比較

パラメータを調整して異なる接合の特性を比較してみよう!

1.0×10⁻⁹
1.00
300

順方向電流@1V

---

逆方向電流@-1V

---

順逆電流比

---

🎯 評価パラメータの物理的意味

📋 Step 5: 測定結果を読み解こう(実用的な解釈)

🍎 身近な例で理解するパラメータ

🥤 ストローの太さ(抵抗)

オーミック接合の場合:

  • 太いストロー: 抵抗小 → 電流たくさん
  • 細いストロー: 抵抗大 → 電流ちょっと
  • 測定値: 1Ω~1000Ω
目標: できるだけ小さな抵抗
(電気を無駄なく流すため)
🚪 ドアの開きやすさ(飽和電流)

pn接合の場合:

  • 重いドア: Is小 → 開けにくい → 良い特性
  • 軽いドア: Is大 → 開けやすい → 悪い特性
  • 測定値: 10⁻⁶A~10⁻¹²A
目標: できるだけ小さなIs
(逆方向に電流を流さないため)
🏔️ 山の高さ(障壁高さ)

ショットキー接合の場合:

  • 低い山: φB小 → 越えやすい → 電流流れやすい
  • 高い山: φB大 → 越えにくい → 電流流れにくい
  • 測定値: 0.3eV~1.2eV
特徴: 使用目的によって最適値が変わる
(低いと高速、高いと省電力)

🎯 良い・悪いの判断基準

✅ 良い特性
  • pn接合: Is小、理想因子≈1
  • ショットキー: 用途に合った障壁高さ
  • オーミック: 抵抗が小さい
  • 共通: グラフがきれいな形
❌ 悪い特性
  • pn接合: Is大、理想因子≫1
  • ショットキー: 不安定な温度特性
  • オーミック: 抵抗が大きい
  • 共通: グラフがガタガタ

💡 実際の応用での使い分け

pn接合

🔋 電源回路
📻 ラジオの検波
💡 LED

ショットキー

⚡ スイッチング電源
📱 スマホ充電器
💻 PC電源

オーミック

🔌 電極接続
⚙️ IC内部配線
🖥️ CPU接続

pn接合の評価パラメータ

🔬 飽和電流 Is

📐 理想因子 n

ショットキー接合の評価パラメータ

🏔️ 障壁高さ φB

金属と半導体の仕事関数差で決まる重要なパラメータ

$$\phi_B = -\frac{kT}{q}\ln\left(\frac{I_s}{AA^*T^2}\right)$$

$A$: 接合面積, $A^* = 120$ A/(cm²·K²) (Siの場合)

オーミック接合の評価パラメータ

⚡ 接触抵抗 Rc

🛠️ 実用的な測定技術

1. TLM (Transmission Line Method)

📏 オーミック接触の抵抗測定

異なる間隔の電極ペアで抵抗を測定し、接触抵抗を分離

$$R_{total} = 2R_c + R_{sheet} \cdot \frac{L}{W}$$

$R_c$: 接触抵抗, $R_{sheet}$: シート抵抗
$L$: 電極間距離, $W$: 電極幅

$L$ vs $R_{total}$ のプロットから $R_c$ を抽出

2. CV測定による不純物プロファイル

不純物濃度の深さ分布

$$N(x) = \frac{2}{q\varepsilon A^2} \left[\frac{d(1/C^2)}{dV}\right]^{-1}$$ $$x = \frac{\varepsilon A}{C}$$

深さ方向の不純物分布を非破壊で測定可能

3. 光応答測定

💡 光電流による評価

🔍 測定上の注意点と課題

pn接合測定の注意点

  • 表面漏れ電流の影響
  • 直列抵抗による電圧降下
  • 高注入効果での理論式の破綻
  • 温度による特性変化

ショットキー測定の課題

  • 表面準位の影響
  • 像力低下効果
  • 端効果による特性劣化
  • 金属膜の均一性

オーミック接触の困難さ

  • 微小抵抗の正確な測定
  • プロービングによる接触抵抗
  • 電流分布の不均一性
  • 合金化プロセスの制御

💡 評価結果の解釈と応用

🎓 実用的な指針

デバイス設計への応用:

品質管理への応用:

🔬 研究開発での活用

🤔 よくある質問(Q&A)

❓ Q1: なぜpn接合は一方通行なの?

A: 水道管で例えると「逆止弁」があるからです。

  • 物理的理由: p型とn型の境界にエネルギー障壁ができる
  • 順方向: 障壁が下がって電子が流れやすくなる
  • 逆方向: 障壁が高いままで電子がほとんど流れない

→ この非対称性が整流作用を生む!

❓ Q2: ショットキーはなぜpnより速いの?

A: 「多数キャリア動作」だから蓄積効果がありません。

  • pn接合: 少数キャリア注入 → 蓄積 → 遅い
  • ショットキー: 多数キャリア動作 → 蓄積なし → 速い
  • 具体例: pn 100ns vs ショットキー 1ns

→ 高周波用途に最適!

❓ Q3: オーミック接触はどうやって作るの?

A: 障壁を「無くす」か「薄くする」技術を使います。

  • 高ドープ化: n⁺⁺、p⁺⁺にして障壁を薄く → トンネル効果
  • 適切な金属選択: 仕事関数を半導体に合わせる
  • 合金化: 高温処理で界面を合金にする
  • シリサイド形成: CoSi₂、TiSi₂など

→ 抵抗を限りなく小さくする職人技!

❓ Q4: 理想因子nが1より大きいのは悪いこと?

A: 必ずしも悪くありません。物理現象を反映しています。

  • n = 1: 拡散電流支配(理想的)
  • n = 2: 再結合電流支配(空乏層内再結合)
  • n > 2: 表面準位、トンネル電流など

→ n値から電流機構がわかる診断ツール!

❓ Q5: 測定で失敗しやすいポイントは?

A: 以下のポイントに注意しましょう:

  • 温度管理: 温度変化で特性が大きく変わる
  • 光の遮断: 光で光電流が発生する
  • プロービング: 針の接触で表面を傷つける
  • 電流レンジ: 微小電流から大電流まで幅広い
  • 直列抵抗: 配線抵抗が測定に影響

→ 丁寧な測定準備が成功の鍵!

📚 参考資料・さらに学ぶために

📘 初心者向け(高校〜大学1年)

  • 書籍:
    • 「半導体の基礎」石原宏著
    • 「図解でよくわかる半導体の基本と仕組み」
    • 「絵解き半導体工学入門」
  • Web資料:
    • NHK高校講座「物理」
    • YouTube「予備校のノリで学ぶ物理」

📙 中級者向け(大学2〜3年)

  • 書籍:
    • 「半導体物理学」高橋清著
    • 「Semiconductor Physics and Devices」Neamen
    • 「固体物理学入門」キッテル
  • 演習書:
    • 「半導体工学演習」
    • 「固体物理学演習」

📕 上級者向け(大学4年〜院生)

  • 書籍:
    • 「Physics of Semiconductor Devices」Sze & Ng
    • 「Advanced Theory of Semiconductor Devices」Brennan
    • 「Quantum Heterostructures」Bastard
  • 論文・学会:
    • IEEE Transactions on Electron Devices
    • Journal of Applied Physics
    • 応用物理学会

🛠️ 実践的なシミュレーションツール

無料ツール
  • LTSpice(回路)
  • ngspice(回路)
  • Octave/MATLAB
  • Python + NumPy
商用ツール
  • SPICE系(Hspice等)
  • Silvaco ATLAS
  • Synopsys Sentaurus
  • COMSOL Multiphysics

📝 練習問題

🔢 問題1: 基本計算(中級)

シリコンpn接合(室温300K)で以下の条件のとき、順方向電流を求めよ:

  • 飽和電流 Is = 1×10⁻¹⁰ A
  • 印加電圧 V = 0.7 V
  • 理想因子 n = 1.2
💡 解答・解説を見る

解答:

kT/q = 0.0259 V (室温)
qV/(nkT) = 0.7/(1.2×0.0259) = 22.5
I = Is×(exp(22.5) - 1) ≈ Is×exp(22.5)
I = 1×10⁻¹⁰ × 6.2×10⁹ ≈ 0.62 A

ポイント: 順方向では(exp(x)-1) ≈ exp(x) で近似可能

📊 問題2: パラメータ抽出(上級)

I-V測定データから以下を求める手順を説明せよ:

  • 測定値: V=0.6V, I=1mA; V=0.65V, I=10mA
  • 求めるもの: Is, n
💡 解答・解説を見る

解答手順:

  1. 対数をとる: ln(I) = ln(Is) + qV/(nkT)
  2. 傾きを計算:
    傾き = [ln(10e-3)-ln(1e-3)]/[0.65-0.6] = ln(10)/0.05 = 46.1
  3. n値算出:
    n = q/(kT×傾き) = 1/(0.0259×46.1) = 0.84
  4. Is算出: 任意の点から逆算
    Is = I/exp(qV/nkT) = 1e-3/exp(0.6/(0.84×0.0259)) ≈ 2.3×10⁻¹⁴ A

🎯 問題3: 応用設計(実践)

LED設計で順方向電流10mAを1.8Vで流したい。必要なIs値は?

  • 条件: V = 1.8V, I = 10mA, n = 1.5, T = 300K
  • ヒント: LEDは大きな順方向電圧が特徴
💡 解答・解説を見る

解答:

qV/(nkT) = 1.8/(1.5×0.0259) = 46.3
I ≈ Is×exp(46.3) (exp(46.3) >> 1のため)
Is = I/exp(46.3) = 10e-3/exp(46.3)
Is = 10e-3/(4.4×10²⁰) ≈ 2.3×10⁻²³ A

考察: LEDは非常に小さなIs値が必要。これは高品質な結晶が要求される理由!

🎉 おめでとうございます!

pn接合・ショットキー・オーミック接合の評価方法を
基礎から応用まで完全マスター!

💪 身についたスキル

✅ 物理的直感
✅ 数式の意味
✅ 測定技術
✅ データ解析
✅ 実用応用
✅ 問題解決

次は他の半導体現象にチャレンジ!
君なら必ずできる 🌟