📡 アンテナ工学基礎
八木アンテナから学ぶ電磁波の世界

🎯 この記事で学べること

  • アンテナとは何か?どんな仕組みで動くのか?
  • 八木アンテナの構造と動作原理
  • 指向性とゲインの意味
  • 身近なアンテナの種類と特徴
  • アンテナ設計の基本的な考え方

📡 アンテナって何?

🏠 身近な例で考えよう!
テレビのアンテナを見たことありますか?屋根の上にある魚の骨みたいなもの、それが八木アンテナです!
携帯電話、Wi-Fi、Bluetooth... 実は電波を使う機器すべてにアンテナが入っています。

アンテナとは、電気エネルギーと電磁波エネルギーを相互に変換する装置です。

📻 送信アンテナ

電気 → 電磁波
電気信号を受け取って、空間に電磁波として放射します。
例:放送局のアンテナ、携帯基地局

📺 受信アンテナ

電磁波 → 電気
空間の電磁波をキャッチして、電気信号に変換します。
例:テレビアンテナ、携帯電話

🔍 アンテナの基本原理

1. 電流が流れると電磁波が出る

📊 電流と電磁波の関係

金属の導線に交流電流が流れると、その周りに電磁界が発生します。
この電磁界が空間に電磁波として放射されるのです。

⚡ 交流電流 → 🌊 変動する電磁界 → 📡 電磁波放射

2. 共振の重要性

アンテナが効率よく動作するには、共振が重要です。

基本的な共振長

$$L = \frac{\lambda}{2}$$

$L$:アンテナの長さ、$\lambda$:波長
半波長の長さが最も効率的!

💡 なぜ半波長?
弦楽器の弦と同じです。両端で反射する波が重なり合って、定在波ができます。
半波長のとき、電流と電圧の関係が最も効率的になります。

🎯 八木アンテナの詳細解説

📐 八木アンテナの構造

反射器  給電部  導波器1  導波器2  導波器3

 |    |    |    |    |

 |    |    |    |    |

==========================================

            → 電波の方向 →

各素子の長さと間隔を調整することで、特定方向に強く電波を送受信

🔧 各素子の役割

📡 給電部(駆動素子)

  • 長さ:約 $\lambda/2$
  • 実際に電流が流れる部分
  • 送受信の中心となる素子
  • 同軸ケーブルが接続される

🔄 反射器(リフレクタ)

  • 長さ:約 $0.55\lambda$(少し長い)
  • 後方への電波を前方に反射
  • 給電部から約 $0.15\lambda$ 後方
  • 通常1本だけ設置

➡️ 導波器(ディレクタ)

  • 長さ:約 $0.45\lambda$(少し短い)
  • 電波を前方に導く役割
  • 複数本設置することが多い
  • 本数が多いほど指向性が鋭くなる
💡 覚え方
反射器 > 給電部 > 導波器
長い順に並んでいます!

⚡ 八木アンテナの動作原理

📝 ステップ by ステップ

  1. 給電部に電流が流れる→ 電磁波が放射される
  2. 反射器に誘導電流→ 位相が遅れて再放射
  3. 導波器に誘導電流→ 位相が進んで再放射
  4. 各素子からの電波が合成→ 前方向で建設的干渉
  5. 結果:前方向に強い指向性を持つ

🔥 重要なポイント

位相の制御がキーポイントです!
各素子の長さと間隔を微調整することで、電波の位相を制御し、
特定方向で波が強め合うようにしているのです。

📊 アンテナの重要パラメータ詳細解説

1. 指向性(Directivity)- 電波の方向集中度

電波がどの方向に強く出るかを定量的に表す重要なパラメータです。

🔢 指向性の定義

$$D = 4\pi \times \frac{\text{最大放射強度}}{\text{全放射電力/4\pi}}$$

対数表現:$D$ [dBi] $= 10 \log_{10}(D)$
※ dBi = 等方性アンテナ(isotropic antenna)との比較
指向性パターンの比較 等方性 D = 1 (0 dBi) ダイポール D = 1.64 (2.15 dBi) 高指向性 D > 10 (>10 dBi)

📡 指向性の物理的意味

  • エネルギー集中度:同じ電力でもより遠くまで届く
  • 空間効率:必要な方向にのみ電波を送信
  • 干渉減少:不要な方向への放射を抑制
  • 受信改善:特定方向の信号を強く受信

💡 指向性の測定方法

放射パターン測定:
• アンテナを回転させながら電界強度測定
• 極座標でパターン表示
• メインローブとサイドローブを識別
• 半値幅(HPBW)で鋭さを評価

2. 利得(Gain)- 実効的な性能指標

指向性に放射効率を考慮した実用的なパラメータです。

🔢 利得の定義

$$G = \eta \times D$$

$\eta$:放射効率(0 ≤ η ≤ 1)
$D$:指向性

対数表現:$G$ [dBi] $= 10 \log_{10}(G)$

⚠️ 指向性 vs 利得の重要な違い

  • 指向性:理想的な無損失アンテナでの集中度
  • 利得:実際のアンテナ(損失あり)での集中度
  • 関係:G = η × D (通常 G < D)
  • 実用性:利得の方が実際の性能を表す

📈 高利得アンテナの特徴

  • 長距離通信:衛星通信、点対点通信
  • 鋭い指向性:精密な方向調整が必要
  • 狭帯域:周波数特性が敏感
  • 大型化:物理的サイズが大きくなる傾向
  • 例:パラボラ(30-40dBi)、八木(10-15dBi)

📊 低利得アンテナの特徴

  • 広域通信:移動通信、放送
  • 広い指向性:方向調整が不要
  • 広帯域:周波数変化に強い
  • 小型化:コンパクトな設計が可能
  • 例:ダイポール(2.1dBi)、モノポール(2-5dBi)

3. 入力インピーダンス - 整合の要

アンテナの電気的特性を決める最重要パラメータです。

🔢 入力インピーダンスの表現

$$Z_{\text{in}} = R_{\text{in}} + jX_{\text{in}}$$

$R_{\text{in}}$:抵抗成分 = 放射抵抗 + 損失抵抗
$X_{\text{in}}$:リアクタンス成分(容量性 or 誘導性)

共振時:$X_{\text{in}} = 0$、$Z_{\text{in}} = R_{\text{in}}$
入力インピーダンスの周波数特性 周波数 f₀: 共振周波数 Z [Ω] f₀ R X 共振点 50Ω

🔌 標準インピーダンス値

  • 50Ω:無線通信、測定機器
  • 75Ω:TV・CATV、映像機器
  • 300Ω:古いTV用平行フィーダ
  • 377Ω:自由空間の特性インピーダンス

💡 なぜ整合が重要?

整合不良の問題:
• 反射による電力損失
• 定在波による発熱
• 送信機の保護回路動作
• 受信感度の劣化

4. VSWR(電圧定在波比)詳細

🔢 VSWRの計算式

$$\text{VSWR} = \frac{1 + |\Gamma|}{1 - |\Gamma|}$$

反射係数:$$\Gamma = \frac{Z_L - Z_0}{Z_L + Z_0}$$

$Z_L$:負荷インピーダンス、$Z_0$:特性インピーダンス

📊 VSWR判定基準

  • VSWR = 1.0:完全整合(反射なし)
  • VSWR < 1.2:優秀(反射 < 1%)
  • VSWR < 1.5:良好(反射 < 4%)
  • VSWR < 2.0:実用可(反射 < 11%)
  • VSWR > 3.0:要改善(反射 > 25%)

5. 周波数特性 - 帯域幅と実用性

アンテナがどの周波数範囲で良好に動作するかを示す重要な特性です。

🔢 帯域幅の定義

絶対帯域幅:$BW = f_H - f_L$ [Hz]
比帯域幅:$BW_{\%} = \frac{f_H - f_L}{f_0} \times 100$ [%]

$f_L$:下限周波数、$f_H$:上限周波数
$f_0$:中心周波数 = $\sqrt{f_L \times f_H}$
アンテナの周波数特性 周波数 利得/VSWR 利得(狭帯域) 利得(広帯域) VSWR 使用可能帯域 f₀

📊 狭帯域アンテナ

  • 特徴:高Q、鋭い共振特性
  • 帯域幅:数%以下
  • 利点:高効率、高利得
  • 欠点:周波数調整が困難
  • 例:共振型ダイポール、パッチ

📈 広帯域アンテナ

  • 特徴:低Q、なだらかな特性
  • 帯域幅:10%以上(オクターブ級も)
  • 利点:周波数調整不要
  • 欠点:効率・利得がやや劣る
  • 例:対数周期、ビコニカル

💡 周波数特性改善技術

  • マッチング回路:L-C回路で周波数特性を平坦化
  • 多共振設計:複数の共振点を持たせる
  • 漸変構造:徐々に寸法を変化させる
  • 複合構造:異なる周波数帯の素子を組み合わせ

🔬 アンテナパラメータの実測と評価

1. ネットワークアナライザによる測定

📡 S11パラメータ測定

  • 反射係数:S11 = Γ(ガンマ)
  • リターンロス:RL = -20log|S11| [dB]
  • VSWR:計算で求める
  • 入力インピーダンス:スミスチャート表示

2. 電波暗室での放射パターン測定

🏠 無響室測定システム

  • 送信アンテナ:標準ホーンアンテナ
  • 被測定アンテナ:ターンテーブルで回転
  • 測定項目:水平・垂直面の放射パターン
  • 利得測定:標準ゲインホーンとの比較

⚙️ 実際の設計における考慮事項

🔥 トレードオフ関係

  • 利得 ↔ 帯域幅:高利得は狭帯域
  • 指向性 ↔ サイズ:鋭い指向性は大型
  • 効率 ↔ 小型化:小型化は効率犠牲
  • 広帯域 ↔ 整合:広帯域は整合困難

🎯 設計目標設定

要求仕様の例:
• 周波数帯:2.4-2.5 GHz
• VSWR < 2.0
• 利得 > 5 dBi
• 半値幅:60°以下
• 寸法制限:100mm以下

📱 現代アンテナ技術の応用例

応用分野 要求特性 使用アンテナ 課題・トレンド
5G基地局 高利得・ビーム制御 マッシブMIMO配列 ミリ波対応・低遅延
衛星通信 極高利得・追尾機能 フェーズドアレイ 低軌道衛星対応
自動車レーダ 狭ビーム・高分解能 パッチ配列 ADAS・自動運転
IoTセンサ 小型・低消費電力 チップアンテナ マルチバンド対応
Wi-Fi 6E/7 広帯域・MIMO 多素子配列 6GHz帯拡張

🧮 実践計算問題

📝 問題1:VSWR計算

問題:50Ω系で負荷インピーダンスが75Ωの場合のVSWRを求めよ。

解答:

反射係数:$\Gamma = \frac{75-50}{75+50} = \frac{25}{125} = 0.2$

VSWR:$\text{VSWR} = \frac{1+|\Gamma|}{1-|\Gamma|} = \frac{1+0.2}{1-0.2} = \frac{1.2}{0.8} = 1.5$

→ VSWR = 1.5(良好な整合状態)

📝 問題2:利得と効率

問題:指向性10dBiのアンテナで放射効率が80%の場合の利得は?

解答:

指向性:$D = 10$ dBi $= 10^{10/10} = 10$(倍数)
放射効率:$\eta = 0.8$

利得:$G = \eta \times D = 0.8 \times 10 = 8$(倍数)
利得:$G = 10\log_{10}(8) = 9.03$ dBi

→ 約9dBiの利得

📝 問題3:帯域幅計算

問題:中心周波数2.45GHzで、2.4-2.5GHzの帯域で動作するアンテナの比帯域幅は?

解答:

絶対帯域幅:$BW = 2.5 - 2.4 = 0.1$ GHz
中心周波数:$f_0 = 2.45$ GHz

比帯域幅:$BW_{\%} = \frac{0.1}{2.45} \times 100 = 4.08\%$

→ 約4%の比帯域幅(狭帯域アンテナ)

🏠 身近なアンテナの種類と特性

アンテナ種類 指向性 利得[dBi] 帯域幅 インピーダンス 用途例
等方性(理論) 無指向性 0 - 377Ω 比較基準
ダイポール 8の字型 2.15 狭帯域 73Ω FM放送受信
モノポール 全方位 2-5 狭帯域 36.5Ω 携帯基地局
八木 強指向性 10-15 狭帯域 50-300Ω 地デジ受信
パッチ 半球型 5-8 狭帯域 50Ω GPS、Wi-Fi
ホーン 鋭指向性 15-25 広帯域 50Ω 衛星通信
パラボラ 超鋭指向性 30-50 広帯域 50Ω BS受信
対数周期 中程度 5-10 超広帯域 50-200Ω 計測・EMI

🔥 重要ポイントまとめ

📝 試験・実務で重要な4つの基本パラメータ

  1. 指向性(D):理想的な電波集中度 [dBi]
  2. 利得(G):実際の電波集中度 = η × D [dBi]
  3. 入力インピーダンス(Zin):給電点から見たインピーダンス
  4. 周波数特性:使用可能な周波数帯域幅

🎯 設計時の重要な関係式

  • $G = \eta \times D$
  • $\text{VSWR} = \frac{1+|\Gamma|}{1-|\Gamma|}$
  • $\Gamma = \frac{Z_L-Z_0}{Z_L+Z_0}$
  • $\lambda = \frac{c}{f}$
  • 基本長:$L = \lambda/2$

⚠️ よくある勘違い

  • 指向性 ≠ 利得(効率の違い)
  • 高利得 ≠ 広帯域(トレードオフ)
  • 大型 ≠ 高性能(設計次第)
  • VSWR=1 ≠ 最高効率(放射効率も重要)

📚 発展的な練習問題

問題4:フリスの公式とアンテナ利得

送信電力10W、送受信アンテナ利得6dBi、距離1km、周波数2.4GHzの場合の受信電力を求めよ。

解答を見る

フリスの公式:$P_r = P_t \times G_t \times G_r \times \left(\frac{\lambda}{4\pi d}\right)^2$

$\lambda = \frac{3 \times 10^8}{2.4 \times 10^9} = 0.125$ m

$G_t = G_r = 10^{6/10} = 3.98$

$P_r = 10 \times 3.98 \times 3.98 \times \left(\frac{0.125}{4\pi \times 1000}\right)^2$

$P_r = 1.26 \times 10^{-9}$ W = -59 dBm

問題5:複素インピーダンスとマッチング

アンテナのインピーダンスが30+j40Ωの場合、50Ω系にマッチングするためのリアクタンス値は?

解答を見る

L型マッチング回路:

並列リアクタンス:$X_p = \pm\sqrt{R_L(R_0-R_L)} = \pm\sqrt{30(50-30)} = \pm 24.5$ Ω

直列リアクタンス:$X_s = -(X_L + \frac{R_L \times X_p}{R_L}) = -(40 + 30 \times 24.5/30) = -64.5$ Ω

容量性リアクタンス -64.5Ω が必要

問題6:放射パターンと利得の関係

半値幅が30°×60°(水平×垂直)のアンテナの近似的な指向性を求めよ。

解答を見る

近似式:$D = \frac{41253}{\theta_H \times \theta_V}$

$D = \frac{41253}{30 \times 60} = \frac{41253}{1800} = 22.9$

$D = 10\log_{10}(22.9) = 13.6$ dBi

※ この近似式は楕円ビームの場合に有効

📐 八木アンテナの設計例

📝 実際に計算してみよう!

問題:地上デジタル放送(470MHz)用の八木アンテナを設計する。

🔢 計算手順:

1. 波長の計算
$\lambda = \frac{c}{f} = \frac{3 \times 10^8}{470 \times 10^6} = 0.638$ m = 63.8 cm
2. 各素子の長さ
• 給電部:$0.5 \times 63.8 = 31.9$ cm
• 反射器:$0.55 \times 63.8 = 35.1$ cm
• 導波器:$0.45 \times 63.8 = 28.7$ cm
3. 素子間隔
• 反射器-給電部:$0.15 \times 63.8 = 9.6$ cm
• 給電部-導波器:$0.2 \times 63.8 = 12.8$ cm

🔧 アンテナの調整とメンテナンス

⚠️ よくある問題と対策

  • 受信不良:素子の腐食、変形 → 清掃・交換
  • VSWRが高い:整合不良 → 素子間隔調整
  • 指向性の劣化:素子の曲がり → 形状修正
  • 帯域特性の悪化:素子長の変化 → 長さ調整

🚀 最新のアンテナ技術

📱 スマートアンテナ

電子的に指向性を制御
• フェーズドアレイ
• MIMO(Multiple Input Multiple Output)
• ビームフォーミング

🌐 5G・6Gアンテナ

ミリ波帯の活用
• マッシブMIMO
• 超小型アンテナ
• メタマテリアル応用

📚 練習問題

問題1:

周波数2.4GHz(WiFi)用のダイポールアンテナの長さを求めよ。

解答:
$\lambda = \frac{3 \times 10^8}{2.4 \times 10^9} = 0.125$ m = 12.5 cm
ダイポール長 = $\lambda/2 = 6.25$ cm

問題2:

八木アンテナで導波器の本数を増やすとどうなるか?

解答:
• 指向性が鋭くなる(ビーム幅が狭くなる)
• 利得が向上する
• 帯域幅が狭くなる
• アンテナが大型化する

🔥 試験・実務で最重要ポイント

  • 指向性と利得:G = η × D の関係、単位はdBi
  • インピーダンス整合:VSWR < 2.0が実用の目安
  • 周波数特性:帯域幅と利得はトレードオフ関係
  • 基本計算:波長λ = c/f、基本長λ/2
  • 反射係数:Γ = (ZL-Z0)/(ZL+Z0)
  • 各種アンテナ特性:用途に応じた選択が重要

💡 実務における設計フロー

  1. 要求仕様の明確化:周波数、利得、指向性、サイズ制限
  2. アンテナ形式の選定:特性と制約のバランス
  3. 理論設計・シミュレーション:電磁界解析ソフト活用
  4. 試作・測定:ネットアナ、電波暗室での評価
  5. 最適化・量産設計:製造性・コストを考慮