⚡ 第5章:ポインティングベクトル

🎯 この章で覚えること

電磁波のエネルギーがどちらの方向にどれくらい流れているかを表すポインティングベクトルを理解しよう!
電力の計算に必要不可欠な概念です。

🔋 ポインティングベクトルって何?

電磁波のエネルギーの流れを表すベクトルです。単位面積あたり単位時間に流れる電磁エネルギーの量と方向を示します。

💡 イメージ
川の流れと同じです。水(エネルギー)がどちらの方向に、どれくらいの勢いで流れているかを表します。
電磁波も同じように、空間をエネルギーが流れていきます。

📐 ポインティングベクトルの定義

$$\vec{S} = \vec{E} \times \vec{H}$$

$\vec{S}$:ポインティングベクトル [W/m²]
$\vec{E}$:電界 [V/m]
$\vec{H}$:磁界 [A/m]

🌊 エネルギーの流れの方向

ポインティングベクトルの方向 = 電磁波の進行方向
S⃗ = E⃗ × H⃗ の右手の法則で決まります

ポインティングベクトル S⃗ = E⃗ × H⃗ E⃗ (x) H⃗ (y) S⃗ (z) エネルギー流 右手の法則 電磁波の伝播 z軸 E⃗ H⃗ S⃗ エネルギー密度: |S⃗| = |E⃗||H⃗|sin(90°) = |E⃗||H⃗| [W/m²] 電磁波では E⃗ ⊥ H⃗ なので sin(90°) = 1

ポインティングベクトルによるエネルギー流の表現

🧮 具体的な計算方法

平面波の場合

z方向に伝播する平面波を考えてみましょう。

電界:$\vec{E} = E_0 \hat{x} \cos(\omega t - kz)$
磁界:$\vec{H} = \frac{E_0}{Z_0} \hat{y} \cos(\omega t - kz)$

ポインティングベクトル:
$\vec{S} = \vec{E} \times \vec{H} = \frac{E_0^2}{Z_0} \cos^2(\omega t - kz) \hat{z}$
💡 重要な性質
• ポインティングベクトルは時間とともに変化する
• 方向は常に波の進行方向(z方向)
• 大きさは $\cos^2(\omega t - kz)$ に比例

📊 平均ポインティングベクトル

時間変化するポインティングベクトルの時間平均値が実用的には重要です。

$$\langle\vec{S}\rangle = \frac{1}{2} \times \frac{E_0^2}{Z_0} \hat{z}$$

時間平均値:$\langle\cos^2(\omega t - kz)\rangle = 1/2$
実効値を使うと:$\langle\vec{S}\rangle = \frac{E_{\text{rms}}^2}{Z_0} \hat{z}$

📝 なぜ1/2?

$\cos^2$の時間平均は1/2になります。これは:
$\cos^2 x = (1 + \cos(2x))/2$
$\cos(2x)$の平均は0なので、$\cos^2 x$の平均は1/2です。

💡 電力密度の計算

瞬時電力密度

$p(t) = |\vec{S}(t)| = \frac{E_0^2}{Z_0} \cos^2(\omega t - kz)$

平均電力密度

$\langle p \rangle = \frac{1}{2} \times \frac{E_0^2}{Z_0} = \frac{E_{\text{rms}}^2}{Z_0}$

🔴 太陽光

約1000 W/m²
(晴天時の地表)

📱 携帯電話

約0.01 W/m²
(基地局から100m)

📻 FM放送

約0.001 W/m²
(送信所から1km)

🌐 自由空間での特殊な場合

自由空間(真空)では:
Z₀ = 377 Ω

平均電力密度:
⟨p⟩ = E_rms²/377 [W/m²]
⟨p⟩ = 377 × H_rms² [W/m²]

📏 エネルギー密度との関係

💡 エネルギー保存
電磁波のエネルギーは光速cで移動します:

エネルギー密度:u = (1/2)(ε₀E² + μ₀H²)
ポインティングベクトル:S = u × c

つまり、ポインティングベクトル = エネルギー密度 × 光速

📊 練習問題

問題1:電界の実効値が10 V/mの平面波が自由空間を伝播している。平均電力密度を求めよ。

解答:
⟨p⟩ = E_rms²/Z₀ = 10²/377 = 100/377 ≈ 0.265 W/m²

答え:0.265 W/m²
問題2:携帯電話の基地局から1km離れた地点での平均電力密度が0.01 W/m²であった。その地点での電界の実効値を求めよ。

解答:
E_rms² = ⟨p⟩ × Z₀ = 0.01 × 377 = 3.77
E_rms = √3.77 ≈ 1.94 V/m

答え:1.94 V/m

🔧 実用的な応用

📡 アンテナの評価

  • 受信電力:P = ⟨S⟩ × アンテナ実効面積
  • アンテナ利得:特定方向のポインティングベクトル増大
  • 電力バジェット:送信から受信までの電力計算

☀️ 太陽電池パネル

  • 太陽光強度:ポインティングベクトルで評価
  • 発電効率:入射電力密度 × 変換効率

⚠️ 注意点

⚠️ ポインティングベクトルを使うときの注意
• 瞬時値は時間変化するので、通常は平均値を使う
• 近傍界では複素ポインティングベクトルを考慮
• 反射や散乱がある場合は、入射・反射・透過を分けて計算
• 単位に注意:[W/m²] = [V/m] × [A/m]

🔥 テストで狙われるポイント

  • ポインティングベクトルの定義:S⃗ = E⃗ × H⃗
  • 平均電力密度:⟨p⟩ = (1/2)(E₀²/Z₀)
  • 自由空間の波動インピーダンス:Z₀ = 377 Ω
  • 実効値での表現:⟨p⟩ = E_rms²/Z₀
  • エネルギー密度との関係:S = u × c
  • 数値計算問題(電界 ↔ 電力密度変換)