📡 第7章:分布定数回路

🎯 この章で覚えること

高周波では普通の回路理論が使えない!分布定数回路の考え方と、
高周波で問題となる寄生成分について理解しよう。

⚡ 高周波と低周波の違い

周波数が高くなると、回路の大きさが波長と比較できるようになり、普通の回路理論では解析できなくなります。

🐌 低周波(~MHz)

集中定数回路
• 回路サイズ << 波長
• R、L、Cで表現可能
• キルヒホッフの法則適用

🚀 高周波(GHz~)

分布定数回路
• 回路サイズ ≈ 波長
• 伝送線路として扱う
• 波動として解析

💡 判断基準
回路の最大寸法が波長の1/10以下なら集中定数回路、
それより大きければ分布定数回路として扱います。

例:1GHzの場合、λ = 30cm なので、3cm以上の回路は分布定数回路!

🔧 高周波での注意点

1. 残留インダクタンス(Parasitic Inductance)

どんな導線にもわずかなインダクタンスが存在します。

直線導線のインダクタンス:
$L \approx 2l [\ln(2l/a) - 0.75]$ [nH]

$l$:導線の長さ [mm]
$a$:導線の半径 [mm]

📊 残留インダクタンスの影響

  • 1mm の導線:約1nH
  • 10mm の導線:約10nH
  • 1GHzでの影響:X_L = 2πfL ≈ 6.3Ω(1mm導線)

短い導線でも高周波では無視できない抵抗になる!

2. 漂遊容量(Stray Capacitance)

導体間には必ずわずかな静電容量が存在します。

平行平板間の容量:
C = ε₀εᵣ A/d [F]

同心円筒間の容量:
C = 2πε₀εᵣ l/ln(b/a) [F]

A:面積、d:距離、l:長さ
a:内径、b:外径

📱 漂遊容量の例

  • プリント基板の配線間:1~10 pF
  • IC のピン間:0.1~1 pF
  • コネクタ:1~5 pF
  • 人体:100~200 pF

1GHzでの影響:1pFで X_C ≈ 159Ω

⚠️ 高周波設計での問題点

🚨 よくある問題

  1. 共振:L×Cで意図しない共振が発生
  2. 結合:近接配線による相互干渉
  3. 放射:配線からの電磁波漏れ
  4. 反射:インピーダンス不整合による反射
  5. 損失:表皮効果による抵抗増加

🔄 分布定数回路の基本概念

伝送線路モデル

高周波回路は伝送線路として扱います。

分布定数パラメータ:
R:単位長さあたりの抵抗 [Ω/m]
L:単位長さあたりのインダクタンス [H/m]
G:単位長さあたりのコンダクタンス [S/m]
C:単位長さあたりの容量 [F/m]
💡 集中定数との違い
集中定数:1つのR、L、C
分布定数:単位長さあたりのR、L、G、C

線路全体に抵抗、インダクタンス、容量が分布している!

📏 代表的な伝送線路

🔌 同軸ケーブル

  • 構造:内導体 + 絶縁体 + 外導体
  • 特性:ノイズに強い、損失やや大
  • 用途:TV、ラジオ、測定器
  • インピーダンス:50Ω、75Ωが標準

📡 マイクロストリップ線路

  • 構造:基板上の配線 + グラウンドプレーン
  • 特性:小型化可能、放射あり
  • 用途:携帯電話、WiFi、Bluetooth
  • 設計:線幅と基板厚でインピーダンス決定

🔗 ツイストペア線

  • 構造:2本の導線をねじり合わせ
  • 特性:ノイズ除去効果、安価
  • 用途:LAN、電話線
  • カテゴリ:Cat5e、Cat6、Cat6a など

⚡ 表皮効果

高周波では電流が導体の表面付近に集中する現象です。

表皮の深さ:
δ = √(2/(ωμσ)) = √(2ρ/(ωμ))

ω:角周波数、μ:透磁率
σ:導電率、ρ:抵抗率

📊 銅での表皮の深さ

  • 1 MHz:約 66 μm
  • 100 MHz:約 6.6 μm
  • 1 GHz:約 2.1 μm
  • 10 GHz:約 0.66 μm

周波数が高いほど表面の薄い層しか使われない!

🔧 高周波設計のコツ

🎯 設計指針
  1. 最短配線:寄生成分を最小化
  2. インピーダンス整合:反射を防ぐ
  3. グラウンドプレーン:リターン電流路を確保
  4. シールド:不要放射・干渉を防ぐ
  5. 分離:高周波部と低周波部を分離
  6. デカップリング:電源ノイズ対策

📊 練習問題

問題1:1GHzにおいて、回路を集中定数として扱える最大寸法は?

解答:
f = 1GHz のとき λ = c/f = 3×10⁸/(1×10⁹) = 0.3m = 30cm
集中定数の条件:寸法 < λ/10 = 30/10 = 3cm

答え:3cm
問題2:10GHzでの銅の表皮の深さを求めよ。
(銅の導電率:σ = 5.8×10⁷ S/m、μ = μ₀)

解答:
ω = 2πf = 2π×10¹⁰ rad/s
δ = √(2/(ωμ₀σ)) = √(2/(2π×10¹⁰×4π×10⁻⁷×5.8×10⁷))
δ ≈ 0.66×10⁻⁶ m = 0.66 μm

答え:0.66 μm

🔥 テストで狙われるポイント

  • 集中定数と分布定数の判断基準(寸法 vs λ/10)
  • 残留インダクタンス・漂遊容量の概念
  • 高周波での問題点(共振、結合、放射、反射)
  • 表皮効果と表皮の深さ:δ = √(2/(ωμσ))
  • 分布定数パラメータ(R、L、G、C)
  • 代表的な伝送線路の特徴
  • 高周波設計の基本指針